今日から使えるライテク実践講座-「ライディングスタイルを考える」

バージンバイク×マガジンズ

Text / Kentaro SAGAWA Photo / Satoshi MAYUMI, Yuji FUKUYAMA, RAT  取材協力 /ライディングアカデミー東京

ライディングアカデミー東京」佐川健太郎の“スマートテク”とは?
普段から役立つ実践的なノウハウや方法をレクチャーしてくれるのは、バイクライフをもっと豊かにするためのライディングスクール「ライディングアカデミー東京」の佐川健太郎校長。せっかく手元にある大型バイク、安全に走りを楽しみ、満面の笑みで1日を終えたいもの。そのためには、ライダー自身のスキルアップと安全意識の向上、環境へも配慮したスマートなライディングを目指したい。それが“スマートテク”なのだ。

ライディングを
自ら固定しないこと

私が主催するライディングスクールを受講されるライダーの方々から、ライディングフォームについての質問を受けることがよくあります。「安全運転講習会などで習うフォームとサーキット走行でのフォームはだいぶ違ってみえますが、どちらが正しいのですか?」などという内容です。これは、簡単そうで実は非常に奥が深いテーマで、ひと口には答えを出せないというのが本当のところです。

 

安全運転講習会などで推奨するフォームはリーンウィズが一般的です。これはコーナリング時に車体の傾きに合わせて同じようにライダーの上体も傾けていくフォームで、もっとも基本的で自然な乗り方です。頭と着座位置が常にバイクのセンターにあるので、左右どちらにも機敏に曲がりやすく、目線も高いため視界を広く遠くまで見通せるメリットもあります。

 

これに対し、サーキットライディングでは腰を大きくイン側にずらした、いわゆるハングオフというスタイルが主流です。高いコーナリング速度によって発生する大きな遠心力に対抗するためで、イン側の低い位置に腰をずらすことで内向力と旋回安定性を引き出すのが狙いです。ただし体重移動量も大きくなるため、いざというときの瞬間的な回避行動などはしにくい場合もあります。

 

ライテクの世界では前者を「低速系」、後者を「高速系」あるいは「サーキット系」などと呼んだりしますが、両者ともその道を極めていけばまた違った姿が見えてきます。たとえば低速系のスペシャリストである白バイ隊員。彼らの走りを見ていると、車体をあまり寝かせずに上体を大きくイン側に入れたフォームになっています。それは何故でしょうか?

 

白バイ隊員は転ぶわけにはいきませんし、どんな路面状況でも走破しなければなりません。また、白バイは転倒時のダメージを軽減するため大型バンパーを装備していて、バンク角そのものが規制されています。そのため、車体はなるべく起こしつつハンドルを切って曲がるような走り方になっています。安全マージンを最大限取りながら最大効率の走りを目指した結果、あの独特のライディングスタイルになっているのです。

 

高速系の代表はなんといってもレーシングライダーでしょう。華麗なハングオフ・フォームは職人芸の世界ですよね。ただトップクラスのライダー同士でもよく見るとライディングフォームは異なっています。最近では伝統的なハングオフだけでなく、腰のずらし方は比較的少なめで頭を大きくイン側に入れた、リーンイン的なフォームも見られるようになりました。電子デバイスやタイヤの性能の著しい進化が、こうした新しい乗り方を可能にしているとも言われています。

 

いずれにしても大事なのは、ライディングスタイルを自ら固定しないこと。速度域やロケーション、走る目的によって柔軟かつ多様性を持って対応すべきものと私は考えます。いわば、走りのトランスフォームです。それが安全マージンを高めることにもつながり、ライディングの楽しさを広げてくれることでしょう!

 

文/佐川 健太郎

SMART TECNIQUE GUIDANCE

サーキットのような高速・高荷重のコーナリングでは腰を大きくイン側にずらしたハングオフ・フォームのメリットが発揮されます。遠心力に対抗してバンク角も深くなるため、ステアリングの切れ角は相対的に少なくなります。写真を見てのとおり、同じハングオフでもいろいろなフォームのバリエーションがあることが分かります。

ハングオフ(高速バンク角型)

サーキットのような高速・高荷重のコーナリングでは腰を大きくイン側にずらしたハングオフ・フォームのメリットが発揮されます。遠心力に対抗してバンク角も深くなるため、ステアリングの切れ角は相対的に少なくなります。写真を見てのとおり、同じハングオフでもいろいろなフォームのバリエーションがあることが分かります。

 

白バイはストリート・ライディングのスペシャリストです。サーキットと違いミューが不安定な路面を走るためバンク角は浅めで、ステアリングを切って曲げていく走り方が主流になります。バンク角不足を補うために、上体をイン側に入れたリーンイン的なフォームが特徴的ですが、これは滑りやすい路面などでも効力を発揮します。

リーンイン(低速ステア角型)

白バイはストリート・ライディングのスペシャリストです。サーキットと違いミューが不安定な路面を走るためバンク角は浅めで、ステアリングを切って曲げていく走り方が主流になります。バンク角不足を補うために、上体をイン側に入れたリーンイン的なフォームが特徴的ですが、これは滑りやすい路面などでも効力を発揮します。

タイムを競うサーキットでは常に加速重視のフォームの必要性から、ライダーは上体を伏せた前傾スタイルになります。これはコーナリング中であっても同じで、空気抵抗を減らすとともに重心を下げることで旋回安定性を引き出しています。着座位置は比較的シートの前寄りで、下半身を通じてフロントに荷重をかけていくイメージになります。

前傾フォームで着座は前寄り

タイムを競うサーキットでは常に加速重視のフォームの必要性から、ライダーは上体を伏せた前傾スタイルになります。これはコーナリング中であっても同じで、空気抵抗を減らすとともに重心を下げることで旋回安定性を引き出しています。着座位置は比較的シートの前寄りで、下半身を通じてフロントに荷重をかけていくイメージになります。

 

クイックターンや回避制動など究極の機動力が求められる白バイには、幅広のアップハンドルが装備されています。上体はアップライトに、やや腰を引いてシート後方に座る独特のスタイルが印象的ですが、これはリアステアでハンドルを切って曲がる走り方に適しています。「走る」「止まる」「曲がる」を全方位的にカバーするスタイルですね。

アップライトに構えて後ろ乗り

クイックターンや回避制動など究極の機動力が求められる白バイには、幅広のアップハンドルが装備されています。上体はアップライトに、やや腰を引いてシート後方に座る独特のスタイルが印象的ですが、これはリアステアでハンドルを切って曲がる走り方に適しています。「走る」「止まる」「曲がる」を全方位的にカバーするスタイルですね。

Practice

中速以上のコーナリングでは徐々にステア角からバンク角への依存度が大きくなっていきます。旋回速度が上がるにつれ、ライディングフォームもハングオフが自然とやり易くなっていくはず。頭はセンターに置きつつ腰は大きくイン側にずらし、シートを通じて体重をバイクに預けていくイメージ。荷重がかかればグリップ力も高まり、安定します。

シートに体重を預ける

中速以上のコーナリングでは徐々にステア角からバンク角への依存度が大きくなっていきます。旋回速度が上がるにつれ、ライディングフォームもハングオフが自然とやり易くなっていくはず。頭はセンターに置きつつ腰は大きくイン側にずらし、シートを通じて体重をバイクに預けていくイメージ。荷重がかかればグリップ力も高まり、安定します。

 

スラロームのような低速ターンでは、腰はずらさずシートのセンターに座り、上体だけ少しイン側に入れたフォームがおすすめ。バンク角を浅くしつつステア角を大きくすることで、安全マージンと旋回効率を両立させることが出来ます。セルフステアを抑えないようにするためには、顔と上体を常に曲がりたい方向へ向けていくことがポイントです。

曲がる方向へ上体を向ける

スラロームのような低速ターンでは、腰はずらさずシートのセンターに座り、上体だけ少しイン側に入れたフォームがおすすめ。バンク角を浅くしつつステア角を大きくすることで、安全マージンと旋回効率を両立させることが出来ます。セルフステアを抑えないようにするためには、顔と上体を常に曲がりたい方向へ向けていくことがポイントです。


スマテク講座 講師
佐川 健太郎(Kentaro SAGAWA)
「ライディングアカデミー東京」校長。1963年東京生まれ。モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践的な低速系ライディングから、モータースポーツとしてのサーキットライディングまで、テクニックやノウハウに造詣が深く、メーカー系イベントや各種スクール、走行会などでも講師を務める。米国ケビン・シュワンツ・スクール修了。MFJ公認インストラクター。