今日から使えるライテク実践講座-「危険を見抜く①~市街地編~」

バージンバイク×マガジンズ

Text / Kentaro SAGAWA Photo / Satoshi MAYUMI  取材協力 /ライディングアカデミー東京

ライディングアカデミー東京」佐川健太郎の“スマートテク”とは?
普段から役立つ実践的なノウハウや方法をレクチャーしてくれるのは、バイクライフをもっと豊かにするためのライディングスクール「ライディングアカデミー東京」の佐川健太郎校長。せっかく手元にある大型バイク、安全に走りを楽しみ、満面の笑みで1日を終えたいもの。そのためには、ライダー自身のスキルアップと安全意識の向上、環境へも配慮したスマートなライディングを目指したい。それが“スマートテク”なのだ。
閑話休題「危険を見抜く①~市街地編~」

謙虚さを忘れずに
日々走ってほしい

2007年10月7日、日本を代表するレーシング・ライダーが交通事故で亡くなったことは記憶に新しいと思います。事故が起こったのは川崎市の片側2車線道路。左側車線から違法にUターンしてきたトラックに対し後方右車線側から衝突し、搬送先の病院で亡くなりました。

 

どうしてこのような悲惨な事故が起こってしまったのでしょう。そもそもUターン禁止場所で後方確認を怠り、強引にUターンしたトラック運転手に非があるのは明らかです。ただ、こちらが悪くなくても巻き込まれてしまうのが事故です。こうした悲劇を繰り返さないためにも、我々ライダーは事故を教訓としなければなりません。

 

事故発生時刻は午後6時過ぎと伝えられています。夕暮れ時は交通事故が頻発する、いわゆる「魔の刻」です。急に暗くなり視認性が低下するとともに、相手からも発見されにくくなります。また、家路を急ぐ人やクルマで交通量が増え、ドライバーにも疲労からくる集中力の欠如が見られる時間帯です。特に2輪車は、クルマと比べて小さく目立ちにくいので見落とされがちです。事故を起こしたドライバーがよく言うセリフが「バイクが急に眼の前にいた」というもの。小さくて機動力のあるバイクはドライバーの速度感覚を誤らせます。目線だけ送っていても「見ているつもりで見えていない」ことがよくあるのです。

 

一方で亡くなったレーシング・ライダーについても、一般公道での走行経験が浅かったとか、乗っていたのがビッグスクーターではなく通常のバイクだったらとか、速度が出過ぎていたのでは…等々、当時は憶測を含めていろいろな報道がなされましたが、それは要因のひとつでしかないでしょう。ひとつ言えること、それは世界選手権で優勝経験もあるようなトップレベルの運転技能を持ったライダーであっても、事故は起きてしまうという事実です。

 

ましてや我々のような一般ライダーなら言わずもがな。慎重であることに越したことはありませんし、もしテクニック偏重の考え方や運転行動をしているとしたら、非常にリスクが高いと言わざるを得ません。過信は油断につながり、漫然運転や乱暴な走りへと陥っていきます。危険を見抜くことは特別な能力ではありません。何かが起こるかもしれない、起こったら自分も相手も傷つけてしまうと思える気持ち「謙虚な心」を持つこと。それが危険を見抜くための最初のプロセスであると私は考えます。

 

文/佐川 健太郎

SMART TECNIQUE GUIDANCE

時間感覚は
同じとは限らない

心理学の世界では「主観時間」というのがあるそうです。これは人それぞれが感じる時間感覚の差のことで、同じ1秒でも人によってそれを実際より短かく、あるいは長く感じたりします。また、同じ人でも置かれた状況によって主観時間は変わってきます。たとえば、手に汗握るアクション映画を見ているときなど、時間はあっという間に過ぎてしまいますよね。逆に退屈な会議などでは、進まない時計を何回も見てしまいます。

 

人は興奮したり焦ったりして何かに集中しているとき、時間を短く感じるようです。これはバイク・ライディングでも顕著に現れます。Uターンのときを思い出してみてください。しっかり後方確認したはずなのに、発進しようとしたらクルマがすぐ後ろにいて、激しくクラクションを鳴らされた経験はありませんか? これはライダーとドライバーの主観時間の差が原因です。Uターンではスロットルを少し開けながら半クラで発進し、リアブレーキを当てながら車体を倒し込んでいくなど複雑な操作が必要になり、ライダーはそこに集中しているわけです。後方確認してからUターン動作に入るまでに実際は10秒ほどかかっているのに、本人にとっては一瞬のことにしか感じられません。一方、クルマは40㎞/hで走行していても、10秒あれば100メートル以上進んでしまうため「なにをモタモタ…」となるわけです。

 

こうした時間感覚のズレが、事故の危険を生んでいる可能性も大いにあるのではないでしょうか。人は自分と同じ時間の中で動いているのではないことを、心の片隅に置いておくといいかもしれません。

 

Practice

交通事故のほとんどは交差点付近で起きています。直進しようとしたら前のクルマが急に左折を始めました。左折巻き込みの危険はなんとか回避できましたが、車体を切り返して右から追い越そうとしたら目の前に右折車が…。これは右直事故の典型例のひとつです。バイクからは右折車が見えず、右折しようとしているドライバーからもクルマの影に隠れたバイクは見えていないことがほとんど。そもそも交差点付近での進路変更は禁止です。

交差点が危ない!

交通事故のほとんどは交差点付近で起きています。直進しようとしたら前のクルマが急に左折を始めました。左折巻き込みの危険はなんとか回避できましたが、車体を切り返して右から追い越そうとしたら目の前に右折車が…。これは右直事故の典型例のひとつです。バイクからは右折車が見えず、右折しようとしているドライバーからもクルマの影に隠れたバイクは見えていないことがほとんど。そもそも交差点付近での進路変更は禁止です。

 

道路の前方で渋滞が発生。徐々に速度を落として最後尾に付くのが基本ですが、バイクの機動力を生かして「すり抜け」したい気持ちも分かります。道交法上では安全運転義務違反になるような危険な行為でなければ、特に「すり抜け」自体を罰する規定はないようですが、それ以前にどんな危険があるか認識することが大事。急なドア開けや渋滞車両の間からの人や自転車、原付などの飛び出しがあることを前提に、いつでも止まれる準備をしておく必要があります。

すり抜けは状況判断を!

道路の前方で渋滞が発生。徐々に速度を落として最後尾に付くのが基本ですが、バイクの機動力を生かして「すり抜け」したい気持ちも分かります。道交法上では安全運転義務違反になるような危険な行為でなければ、特に「すり抜け」自体を罰する規定はないようですが、それ以前にどんな危険があるか認識することが大事。急なドア開けや渋滞車両の間からの人や自転車、原付などの飛び出しがあることを前提に、いつでも止まれる準備をしておく必要があります。

近隣住民が行き交う生活道路では、人や自転車との接触事故が増えます。コンビニの駐車場など人やクルマの出入りの激しい場所は特に要注意。写真の場合、歩道を自転車で走っている子供が、その先の駐車場から出てきたクルマなどを避けようとして、チョロっと車道にはみ出してくる可能性があります。また、中央分離帯の樹木の陰から子供やネコなどが飛び出してくることも考えられます。速度を抑えつつ、目線を遠くに視界を広く心掛けましょう。

生活道路では速度を落とす!

近隣住民が行き交う生活道路では、人や自転車との接触事故が増えます。コンビニの駐車場など人やクルマの出入りの激しい場所は特に要注意。写真の場合、歩道を自転車で走っている子供が、その先の駐車場から出てきたクルマなどを避けようとして、チョロっと車道にはみ出してくる可能性があります。また、中央分離帯の樹木の陰から子供やネコなどが飛び出してくることも考えられます。速度を抑えつつ、目線を遠くに視界を広く心掛けましょう。

 

合流は譲り合いの精神で!

この写真は立体交差の合流・分岐地点です。左から本線へ合流しようとするクルマと、逆に本線から左へ分岐しようとするクルマ同士が接触しやすい場所になっています。ここは早めにウィンカーを出し、先に速度を落とすなど明確な意思表示が大事です。たまにバイクが、本来は合流・分岐への誘導路であるはずの左車線から抜いていく場面を見かけますが、非常に危険。特に坂の頂上付近は先の状況が見通せず、前走車が急減速する可能性もあるので要注意です。


スマテク講座 講師
佐川 健太郎(Kentaro SAGAWA)
「ライディングアカデミー東京」校長。1963年東京生まれ。モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践的な低速系ライディングから、モータースポーツとしてのサーキットライディングまで、テクニックやノウハウに造詣が深く、メーカー系イベントや各種スクール、走行会などでも講師を務める。米国ケビン・シュワンツ・スクール修了。MFJ公認インストラクター。