今日から使えるライテク実践講座-「サーキット走行のスポ・テクとは?」

Text / Kentaro SAGAWA Photo / Satoshi MAYUMI  取材協力 /ライディングアカデミー東京  撮影協力 / トミンモーターランド
ライディングアカデミー東京」佐川健太郎の“スマテク”とは?
普段から役立つ実践的なノウハウや方法をレクチャーしてくれるのは、バイクライフをもっと豊かにするためのライディングスクール「ライディングアカデミー東京」の佐川健太郎校長。せっかく手元にある大型バイク、安全に走りを楽しみ、満面の笑みで1日を終えたいもの。そのためには、ライダー自身のスキルアップと安全意識の向上、環境へも配慮したスマートなライディングを目指したい。それが“スマートテク”なのだ。
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バイクの本質について
考えてみてほしい

私がサーキットに興味を持ち始めたのは80年代。当時、WGP で活躍していたF・スペンサーや K・ロバーツに憧れた世代です。2ストV型3気筒の NS500 や直列4気筒の YZR500 が激闘を繰り広げた時代。同輩の方々には懐かしい響きでしょう。まだテレビの衛星放送も WEB もなく、情報は限られていましたが、バイク雑誌やレースを追ったドキュメンタリー映画を食い入るように見つめていました。

 

その頃は憧れからカタチだけ真似して峠道でハングオフして悦に入ったり、と今思えば無謀と思えることも…。「いつか大ケガするからやめときなさい!」と当時に戻って自分を叱ってやりたいぐらいです(笑)。幸い大きなアクシデントもなく今に至っていますが、ある出来事を境に公道を飛ばすのが怖くなりました。友人の死です。彼はある埠頭で若い命を散らしてしまいました。バイクに乗っている多くの方が同じような経験をされていると思いますが、私も大変なショックを受けてしばらくバイクから離れてしまったほどです。その後、再びバイクに乗り始めたときは、迷わずサーキットへ向かっていました。

 

若者は「恐いもの知らず」です。それは恐いものを見た経験がないから、危険の正体をよく知らないからです。だからいろいろなことに果敢にチャレンジ出来るのです。それは若者の特権でもありますが、引き換えに取り返しのつかないリスクを孕んでいる場合もあります。

 

最近ではバイクの大型化とともにユーザーの高年齢化も進んでいますが、一方でバイク経験の浅い熟年ライダーによる事故も増えているようです。私は取材やスクールの仕事でよくワインディングに出かけますが、明らかに飛ばし過ぎのライダーたちを見かけることも少なくありません。つい先日も革ツナギを着込んで最新バイクに跨った一団と出会いましたが、ヘルメットを脱いだ顔は白髪混じり…。私と同年代の “若者” でした。いつまでも若さと情熱を持って趣味に取り組むのは素晴らしいことだと思います。ただ、それが他者の安全を脅かしたり、家族を不幸にするものであってはならない。分別のない子供ならいざ知らず、皆さん平日は立派な社会人のはずです。

 

電子制御とハイグリップタイヤの恩恵を授かった現代の高性能マシンは、経験の浅いライダーでもそれほど多くの時間をかけずに速く走らせることが出来てしまいます。でも、そこに落とし穴があります。限界が高いほどミスしたときの代償も大きいのです。しかしながら人間とはやっかいな生き物で(私も含めて)、実際に体験しないとなかなか本質を理解出来ないのです。

 

さて、本題です。「サーキットに何を求めるのか…」。それは「バイクの本質を理解するため」と私は考えています。バイクとは人間の感性を呼び起こす、この世で最も素晴らしい乗り物であり、おそらく地上を走る最も危険な乗り物です。200ps に迫るパワーがありながら自立することすら出来ない、非常にアンバランスな乗り物なのです。それを身体ひとつで操るから奥深く面白い。ただし、潜在的なリスクは否定出来ません。

 

だからこそ、安全に走ることを目的に設計されたサーキットで、マシンと自分自身の限界を知って欲しい…。全力で走る経験を通じて「バイクの本質」を掴み取って欲しいのです。それがサーキット走行で得られる一番の価値であると考えますし、皆さんにおすすめする理由でもあります。

 

サーキットを走れば恐い思いもするでしょう。転倒することもあるかもしれません。お金もかかります。それでも、対向車やガードレールに囲まれ、免許を失う恐怖に怯えながら飛ばすことを考えたら…? どちらが健全で楽しいスマートなバイクライフなのかは言うまでもありませんよね。ワインディングでは景色を楽しみ、サーキットで思い切り汗を流す。そんな分別のある大人のスポーツライディングを、楽しめたらいいですね。

 

文/佐川 健太郎

バイクライフを余裕で楽しむためのヒント

スキルアップの
計画を立てよう

 

左図はライディングの楽しみ方をステージ別にチャート化したものです。誰でも最初は免許を取るために教習所へ通い、公道を走るための資格を得てライダーとなるはず。その延長線上にあるのが安全運転講習会などで、ストリートを安全に走るための基本を身につけることが出来ます。スキルアップへの第一歩ですね(ステージ①)。多くのライダーはある程度バイクに慣れたらツーリングに出かけることでしょう。ワインディングや高速道路は街乗りと比べると速度も上がるし、天候や路面、交通状況に対応するだけの経験とノウハウが必要になってきます(ステージ②)。楽しいツーリングですが、ワインディングにも慣れてきて公道でスピードを求め出すと危険信号! ハイリスクなだけでその後には何も残りません。繰り返しになりますが、ツーリングでは仲間との語らいや美しい景色、地元ならではの食を楽しみましょう。

 

そして、走りのエキスパートを目指すなら専用コースに行くべきです。低速系を極めたいならスラロームなどのトレーニングを経て、ジムカーナなどの競技へと進むことも出来ます(ステージ③)。また、本格的なスポーツライディングを楽しみたいならサーキット走行会に参加したり、サーキット会員になってスポーツ走行で腕を磨くのもおすすめです。さらにステップアップを目指すならレースへの参加という道も(ステージ④)。

 

もちろん、このとおりにスキルアップしなくてはならないわけではないし、バイクの楽しみ方は他にもたくさんあります。皆さんにとって一番ハッピーになれるステージを見つけてくださいね。

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スマテク講座 講師
佐川 健太郎(Kentaro SAGAWA)
「ライディングアカデミー東京」校長。1963年東京生まれ。モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践的な低速系ライディングから、モータースポーツとしてのサーキットライディングまで、テクニックやノウハウに造詣が深く、メーカー系イベントや各種スクール、走行会などでも講師を務める。米国ケビン・シュワンツ・スクール修了。MFJ公認インストラクター。
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