いつまでも初心者その気持を大切に
“スマテク” もついに今回で最終回を迎えることになりました。真の大人のライダーたるべく、バイクをスマートに、安全に、カッコよく乗りこなすためのノウハウをお伝えしたいとの想いで始めたこの企画。ちょうど1年と2ヵ月、50回以上の連載を週刊で出していくという、なかなかハードなスケジュールでしたが、自分にとってもライディングを深く考える機会になり、有意義な経験だったと思います。これまでスマテクを愛読していただいた読者の方々には、心から感謝の気持ちを伝えたいと思います。
振り返ればいろいろなことがありました。バイクなので雨、風、灼熱に酷寒などは言うに及ばずですが、辛かったのはケガ…。途中、コラムが続いた時期があったことを覚えていらっしゃいますか? 今だから明かしますが、実はあのとき、負傷欠場の状態でした。撮影中のちょっとしたアクシデントで1ヵ月ほどまともに乗れない羽目に…。もちろん、バイクに乗るときは公私ともに細心の注意を払ってはいますが、こんな仕事をしているとあるんですよ、たまに(汗)。まあ、大事には至らず良かったのですが、そんな経験も踏まえて、スマテクの糧にしています。
さて、スマテクは休載となりますが、ライディングの上達に終わりはありません。『卒業証書』ではなく『修了証書』としたのはその意味です。スマテクでは主にストリートにおける安全な乗り方や安全マインド、そしてスポーツライディングの基本などをお伝えしてきました。でも、これはまだほんの一部。バイクという乗り物がこの世に生れてこの方、偉大な先人たちが残してきたライディングに関する知識や技術全体から見れば、小さなピースのひとつでしかありません。そう、これからが本番! スマテク連載で学んだことを普段から活かしてもらいつつも「いつまでも初心者」という思いを忘れずにいて欲しいと願います。
「バイクを意のままに操る」という一見簡単そうで遠大なテーマ。どこまでピースを集めればいいのか…。そのパズルに完成は無いのかもしれません。私自身、まだまだと思うことばかりですし、この先もまだまだ上手くなれると信じています。80歳になってもヒザを擦って走りたいし、カッコよくウィリーをキメたいと思っています。まあ、見ていてくださいな(笑)。これは本気の冗談としても、上手くなることは安全に乗り続けるためにも必要なことですし、バイクライフを豊かにすること、ライディングの楽しさをより深く味わうことにもつながると思います。
私はバイクが大好きです!この素晴らしく人間臭い乗り物を心から愛しています! 皆さんとともに乗れる限り乗り続けていきたいと思っています。いつかどこかでお会いすることがありましたら、気軽に声をかけてくださいね。「スマテクの人でしょ」と…。
文/佐川健太郎
追伸:ライテクを含めて今後も本サイトの中でいろいろな企画に顔を出すと思いますので、ヨ・ロ・シ・ク!
キャラを活かせば
もっと楽しくなる
ネイキッド、スーパースポーツ、ツアラーなどバイクにはいろいろなカテゴリーがありますよね。それぞれ目的によってどの性能に重きを置いているのか、デザインを見れば大体予想はできます。
たとえば、ネイキッドは街乗りからツーリング、スポーツライディングまで幅広くこなせる懐の広さが特徴。スーパースポーツならパワーと切れ味鋭いハンドリングが生み出す運動性能が命だし、ツアラーなら大排気量エンジンとソフトなサスペンションが生み出す快適な走りが魅力になっています。
ここまでは皆さんご存じのとおりですが、肝心なのはそれをどう乗りこなすか。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」と孫子も伝えていますが、バイクの特性と自分の実力をよく理解して乗れば、ライディングにおける安全性も高まるといったところでしょうか。
私は仕事柄いろいろなバイクに乗ってきましたが、タイプの異なるバイクにたくさん乗れば乗るほど、出力特性やハンドリングなどそのバイクの性格がすぐに分かるようになってきます。人とのつき合いも同じようなもの。人生経験が豊富なほど洞察力に優れ、初対面でも相手の性格を見抜けるのと似ているかもしれませんね。
さらに言えば、造り手の想いまでもがバイクのキャラクターを通じて透けて見えるときがあります。「ツアラーみたいだけど、実は本気でスポーツモデルに挑むつもりなんだ」とか「余分なものはあえて排除して、純粋に走る悦びだけを届けたかったのかな」など、目指した方向性が分かってくると乗っていてより楽しくなるし、バイクへの愛着も湧いてきますね。そんなウンチクを仲間同士で語り合うのも楽しいものです。皆さんもお店の試乗会などには積極的に参加して“バイク経験値”を増やしていくといいと思いますよ。
ともかく、そのバイクのキャラクターや特性が分かると「どう乗りこなせばいいのか」が自ずと見えてきます。排気量や重量、出力特性によってブレーキタイミングやコーナリングラインが変わってくるのは Lesson7 でもお伝えしたとおり。Column #5 ではバイクや速度レンジによるライディングフォームの違いも取り上げました。たとえば大排気量マシンであればトルクを活かした立ち上がり加速重視の走りが楽で安全だし、小排気量マシンなら高いエンジン回転数をキープしたままコーナリング速度重視の走りが向いているといった具合。その逆はあり得ないですよね。
バイクという乗り物を操る基本は同じであっても、それぞれの持ち味をいかに引き出しながら乗ってやるかがカギ。そのためにはバイクをスペックだけで理解するのでなく、あるがままを心と体で感じてほしいと思います。そしていろいろな乗り方をご自身で試してみてください。どこかで聞きかじったテクニックではなく、自分自身で掴み取ったもの。それが本物の生きたスキルだと思うからです。
文/佐川健太郎
| 【ビッグネイキッド】 豪快に乗りこなそう! オーバーリッターの排気量とカウルレスの伝統的なスタイル、大柄な車体を誇示するかのような威風堂々とした走りが身上。デカくて重いがその実、意外にスポーティでワインディングも得意。アップハン&分厚い低速トルクのおかげで渋滞路やUターンも楽々。日本の道を走るために生まれたようなオールラウンダー。排気量を活かした豪快な走りが楽しい。 |
| 【スポーツネイキッド】 繊細なコントロールがキモ! 軽量な車体と元気なエンジン、スタイリッシュなデザインが目を引くスポーツネイキッド。ビッグネイキッドよりスポーティかつスーパースポーツよりも扱い易く使い勝手もいいなど、いいとこ取りなカテゴリー。積極的に乗りこなす走りが楽しいが、エンジン特性やハンドリングが機敏なだけに雑な操作はダメ。ブレーキも繊細なタッチでスムーズに乗りこなしたい。 |
| 【スーパースポーツ】 力を抜いてセルフステア! エンジンレイアウトは直4、直3、V2などバラエティに富むが、どれも高回転型でスロットルを開けたときのピークパワーを重視するタイプ。極端な前傾ポジションとも相まって渋滞路などは「忍」の一文字だが、ワインディングやサーキットでの走りは独壇場。ステアリングダンパー標準装備の車輌も多いが、いかに腕の力を抜いてセルフステアを活かせるかがカギ。 |
| 【メガスポーツ】 立ち上がり重視で! 最高速と運動性能の両立を目指したカテゴリーで、国産だとハヤブサや ZZR などがそう。高速ツーリングが得意な“直線番長”と思われがちだが、実はサーキットなどもけっこういける。ただ、走り方はコーナー前半で車体の向きを変えて、直線的に加速する完全な立ち上がり重視型。前後連動 ABS やパワーモードなどのハイテクを使いこなしたい。 |
| 【デュアルパーパス】 長い足でリズミカルに! コンセプトは冒険ロマン。いかにもオフロードを走りそうなスタイルだが実際にダート走行するつもりなら相当な腕が必要。ツアラーとしての資質に優れ、長い足を活かした快適な乗り心地と、2階建てのような目線の高さが気持ちいい。サスストロークを活かし、スロットルのオン・オフでリズムをとると曲がり易い。たまにはスタンディングで乗りこなしたい。 |
| 【ツアラー】 取り回しスキルを磨くべし! 欧米の広大な土地を「安全に快適に速く」移動するための乗り物として発展してきたカテゴリーだけに、ラグジュアリーカー顔負けの乗り心地と装備の充実が魅力。ハイスピードクルーズはもちろん得意だが、巨体の割にワインディングも意外と軽快。ただし、大柄で重量があるため市街地などでの取りまわしスキルは習得すべし。その上で優雅に乗りこなしたい。 |
| 【クールザー】 米国流をマスターしよう! どこまでも続く平坦なフリーウェイをのんびり流す。アメリカ的な発想でツアラーを作るとこうなる。フォワードステップ&ローシートの独特なライディングポジション、長く寝たフロントフォークとリア寄りの分布荷重など、一般的なバイクとは異なる車体構成のためテクニックもやや特殊。体重移動は尻が中心。ブレーキングはリア主体。浅いバンク角を補うリーンインが有効だ。 |
| 【トレール】 ライテク教材として最適! 250cc 中心の、いわゆるオフロードモデルで使い勝手の良さはナンバーワン。軽量・コンパクトな車体と走破性を活かして買い物から林道ツーリングまで、本当の意味でオールマイティに使える。ウィリーやスライドなど過激テクを安全に学ぶにも最適の教材。ただし、ブロックタイヤの限界は高くないので過信は禁物。コーナリングもほどほどに楽しみたい。 |
どんなときでも
自分を見失わないこと
今回は、バイクを安全に乗りこなすためのポイントをいろいろなシチュエーション毎に考えてみたいと思います。
たとえば休日に都会を離れてツーリングに出かけるとします。朝一番、寒い季節はもちろんですが、夏でもタイヤは冷えた状態です。家から出て最初の交差点でスッテーン! とならないためにも、タイヤとともに自分自身もウォーミングアップするつもりでゆったりと落ち着いて走り始めましょう。焦ってつまらないミスをしないためにも、時間に余裕を持つこと。そうそう、出発前にガソリン残量、タイヤの空気圧、ブレーキパッド残量ぐらいはチェックしてくださいね。
さて、まず市街地では、特に交差点が危険ゾーンとなります。事故の多くは交差点とその付近で起こっています。交差点では信号の有る無しに関わらず、いつでもブレーキをかけられるように準備しつつ、速度を落として通過するのが基本。「信号が青だから進む」といった単純な思考ではなく、しっかり自分の目で状況判断することが大事です。また朝と夕方は事故が起こりやすい時間帯です。朝はまだ寝ぼけていたり通勤で急いでいたり、夕方は視界が悪くなり帰宅や配送などで急いでいる人やクルマが多くなるなどリスクが増えます。
高速道路は流れに乗ること、そしてセーフティゾーンを自分の周りに作りながら走ることがポイント。つまり「間合いを取る」ことです。大型車の近くは乱流の影響を受けやすく、橋の上やトンネル出口では強風でハンドルを取られることもあります。速度ムラやフラつくクルマにもご用心。未熟なドライバーはともかく、居眠りの可能性もあります。高速道路に限らずですが、「危険な匂い」のするクルマには極力近づかないこと。後ろから煽ってくるクルマはとっとと先に行かせましょう。前走車と十分な間隔を開けるのはもちろんですが、後続車や左右のクルマともなるべく距離を開けるようにしたいところです。そして相手の死角に入らないような位置関係を、常に心がけてください。
ワインディングに入ったら勢いよく飛ばすのではなく、まずはじっくり自分のペースを作りましょう。これは仲間と一緒の場合、特に注意したい点です。先頭のペースに引っ張られると自分の走りが出来なくなり、焦ってミスもしやすくなるなど極めて危険。楽しいはずの1日が台無しになってしまいます。ワインディングは市街地や高速道路とも速度感や目線の使い方が異なるため、その感覚を思い出すまでにある程度の時間がかかります。最初の30分ぐらいは下見を兼ねて、スロットルのオン・オフだけで軽く流しながらリズムを作るといいでしょう。
また、休日は運転に慣れていないサンデードライバーが多いのも特徴です。ワインディングでは、展望台などがあるパーキングの出入口周辺が特に危険。観光地では急にハンドルを切って土産屋などに入ろうとするクルマも多いので注意しましょう。
そして帰り道。日も暮れて視界は悪く、疲労はピークに達します。高速道路で渋滞にハマることも多く、みんながイライラしています。すり抜けで事故が起こりやすいパターンですね。そんなときこそ、パーキングでひと息入れるぐらいの余裕が欲しいところ。熱い珈琲とストレッチで心身をリフレッシュして、道路が空いた頃に走り出せば、気分よく1日を終えられることでしょう。帰宅時間も案外変わらなかったりしますよ。
どんなシチュエーションでも結局のところ大事なのは、自分を見失わないこと。これに尽きますね。
文/佐川健太郎
| 市街地は集中力を高めて 歩行者、自転車、スクーター、クルマ…。混合交通の極みである市街地こそは最も集中力を発揮すべきシチュエーションではないでしょうか。特に交差点付近は危険ゾーン。たとえ信号が青でも、自分の目で左右の安全確認をして、前後ブレーキを用意しながらスロットルを戻して通過しましょう。 |
| 高速道路は流れるように 高速道路では交通の流れに乗ることがまず大事。過度な速度変化や車線変更はかえって疲れるし、ゆったりとした気持ちで淡々と走る方がスマート。バイクの社会的地位向上や運転免許証を失わないためにもそう思います。速度差が大きく混雑する場合も多いICやSAの出入口付近は要注意。 |
| ワインディングは対話を楽しむ 季節ごとの変化に富んだ景色を味わいつつ、連なるコーナーを愛車とともに駆け抜ける喜びは何にも代えがたいものがありますよね。それも自分のペースで楽しめてこそ。速さに囚われたり、他人との比較になってしまうとバイクとの対話が途切れてしまいます。そしてリスクだけが増大することに。 |
| サーキットは真摯に真剣に サーキットは全身全霊でバイクの性能を引き出して純粋にライディングを楽しむ場所です。その意味で真剣にスポーツに打ち込むのと似ています。安全が確保された専用コースではありますが、速度レンジが高いため相応のリスクを伴うことも事実。ルールとマナーの厳守、安全装備は必須です。 |
| ダートは無理しない 心躍る楽しい林道ツーリングですが、ビッグオフ系やデュアルパーパスなどでは決して無理をしないこと。特に狭い林道や轍などに入ってしまうと身動きがとれなくなってしまうことも。ブレーキングやコーナリングの感覚も舗装路とはだいぶ異なるので、まずはフラットダートで練習しましょう。 |
限界を知ることで
安全マージンも増える
早いもので「スマテク」連載開始から1年が過ぎました。そこでこのレッスンでは、これまでを振り返りつつ、総括していきたいと思います。
「スマテク」は、私の今までのライダーとしての経験や2輪ジャーナリスト、ライディングスクール講師として培ってきたノウハウをまとめたものです。単なるテクニックではなく、安全に走り続けるためのマインドや上達のためのヒントになればと思っていますし、スマテクを通じて皆さんがバイクやライディングへの理解を深められ、より楽しく、スマートに乗りこなしていただけたら幸いです。
さて、今回のテーマは「限界」について。以前のレッスンでも、バンク角やブレーキングの限界について触れましたが、もう少し掘り下げようと思います。限界とはバイクの機械としての限界、すなわち物理学的な限界とライダーの技量やメンタル面からくる限界とがあります。
一定路面におけるバイクのバンク角は主に速度と旋回半径によって決まってきます。もちろんタイヤやサスペンションの性能も大きく関係しますが、いずれにしても物理的な限界はあります。問題はそれ以前にライダー自ら限界を作っている点です。たとえばそれは、緊張からくる「力み」によってステアリングの動きを押さえてしまうことなどです。バイクは車体を傾けることでセルフステアの作用が働き、ハンドルが切れてちょうどいいバンク角で、安定して旋回するように出来ています。それを腕力で押さえ込んでしまうと曲がらなくなるし、極端に行なえばバランス出来ず、転倒の原因になります。
また、ブレーキングではレバーへの入力の強さとタイミングによって限界は大きく変わってきます。ぬかるみを歩いているときを想像してみてください。そっとゆっくり体重をかけていけば坂道も登れますが、勢いよく踏み出せば簡単に足元が滑ってしまいます。それと同じで、どんなハイグリップタイヤを履いていても、ガツンと強くレバーを握れば前輪ロックして滑ってしまいます。
ただ、そうは言ってもつい調子に乗って深くバンクさせてしまったり、パニックブレーキをかけざるを得ない場合もあるでしょう。そんなときでも、予め限界近くのバイクの挙動を知っておくと心に余裕が生まれます。余裕は安全マージンを増やしますので、知っておいて損はありません。と言うよりも、積極的に限界を体験していただき、対処法を身につけて欲しいのです。
以下に限界近くのバイクが教えてくれる「サイン」について解説しましたので、参考にしてください。ただし、公道で限界を試すのはあまりにリスクが高いので、絶対にやめましょう。安全マージンの向上を目指すなら、あくまでも安全が管理されたクローズドコースでトライしてみてください。そしてご自身のセンサーである「感じ取る能力」を磨いていきましょう。
文/佐川健太郎
バイクの本質について
考えてみてほしい
私がサーキットに興味を持ち始めたのは80年代。当時、WGP で活躍していたF・スペンサーや K・ロバーツに憧れた世代です。2ストV型3気筒の NS500 や直列4気筒の YZR500 が激闘を繰り広げた時代。同輩の方々には懐かしい響きでしょう。まだテレビの衛星放送も WEB もなく、情報は限られていましたが、バイク雑誌やレースを追ったドキュメンタリー映画を食い入るように見つめていました。
その頃は憧れからカタチだけ真似して峠道でハングオフして悦に入ったり、と今思えば無謀と思えることも…。「いつか大ケガするからやめときなさい!」と当時に戻って自分を叱ってやりたいぐらいです(笑)。幸い大きなアクシデントもなく今に至っていますが、ある出来事を境に公道を飛ばすのが怖くなりました。友人の死です。彼はある埠頭で若い命を散らしてしまいました。バイクに乗っている多くの方が同じような経験をされていると思いますが、私も大変なショックを受けてしばらくバイクから離れてしまったほどです。その後、再びバイクに乗り始めたときは、迷わずサーキットへ向かっていました。
若者は「恐いもの知らず」です。それは恐いものを見た経験がないから、危険の正体をよく知らないからです。だからいろいろなことに果敢にチャレンジ出来るのです。それは若者の特権でもありますが、引き換えに取り返しのつかないリスクを孕んでいる場合もあります。
最近ではバイクの大型化とともにユーザーの高年齢化も進んでいますが、一方でバイク経験の浅い熟年ライダーによる事故も増えているようです。私は取材やスクールの仕事でよくワインディングに出かけますが、明らかに飛ばし過ぎのライダーたちを見かけることも少なくありません。つい先日も革ツナギを着込んで最新バイクに跨った一団と出会いましたが、ヘルメットを脱いだ顔は白髪混じり…。私と同年代の “若者” でした。いつまでも若さと情熱を持って趣味に取り組むのは素晴らしいことだと思います。ただ、それが他者の安全を脅かしたり、家族を不幸にするものであってはならない。分別のない子供ならいざ知らず、皆さん平日は立派な社会人のはずです。
電子制御とハイグリップタイヤの恩恵を授かった現代の高性能マシンは、経験の浅いライダーでもそれほど多くの時間をかけずに速く走らせることが出来てしまいます。でも、そこに落とし穴があります。限界が高いほどミスしたときの代償も大きいのです。しかしながら人間とはやっかいな生き物で(私も含めて)、実際に体験しないとなかなか本質を理解出来ないのです。
さて、本題です。「サーキットに何を求めるのか…」。それは「バイクの本質を理解するため」と私は考えています。バイクとは人間の感性を呼び起こす、この世で最も素晴らしい乗り物であり、おそらく地上を走る最も危険な乗り物です。200ps に迫るパワーがありながら自立することすら出来ない、非常にアンバランスな乗り物なのです。それを身体ひとつで操るから奥深く面白い。ただし、潜在的なリスクは否定出来ません。
だからこそ、安全に走ることを目的に設計されたサーキットで、マシンと自分自身の限界を知って欲しい…。全力で走る経験を通じて「バイクの本質」を掴み取って欲しいのです。それがサーキット走行で得られる一番の価値であると考えますし、皆さんにおすすめする理由でもあります。
サーキットを走れば恐い思いもするでしょう。転倒することもあるかもしれません。お金もかかります。それでも、対向車やガードレールに囲まれ、免許を失う恐怖に怯えながら飛ばすことを考えたら…? どちらが健全で楽しいスマートなバイクライフなのかは言うまでもありませんよね。ワインディングでは景色を楽しみ、サーキットで思い切り汗を流す。そんな分別のある大人のスポーツライディングを、楽しめたらいいですね。
文/佐川 健太郎
スキルアップの
計画を立てよう
| 左図はライディングの楽しみ方をステージ別にチャート化したものです。誰でも最初は免許を取るために教習所へ通い、公道を走るための資格を得てライダーとなるはず。その延長線上にあるのが安全運転講習会などで、ストリートを安全に走るための基本を身につけることが出来ます。スキルアップへの第一歩ですね(ステージ①)。多くのライダーはある程度バイクに慣れたらツーリングに出かけることでしょう。ワインディングや高速道路は街乗りと比べると速度も上がるし、天候や路面、交通状況に対応するだけの経験とノウハウが必要になってきます(ステージ②)。楽しいツーリングですが、ワインディングにも慣れてきて公道でスピードを求め出すと危険信号! ハイリスクなだけでその後には何も残りません。繰り返しになりますが、ツーリングでは仲間との語らいや美しい景色、地元ならではの食を楽しみましょう。 |
そして、走りのエキスパートを目指すなら専用コースに行くべきです。低速系を極めたいならスラロームなどのトレーニングを経て、ジムカーナなどの競技へと進むことも出来ます(ステージ③)。また、本格的なスポーツライディングを楽しみたいならサーキット走行会に参加したり、サーキット会員になってスポーツ走行で腕を磨くのもおすすめです。さらにステップアップを目指すならレースへの参加という道も(ステージ④)。 | |
もちろん、このとおりにスキルアップしなくてはならないわけではないし、バイクの楽しみ方は他にもたくさんあります。皆さんにとって一番ハッピーになれるステージを見つけてくださいね。